「ウエスト・サイド・ストーリー」を観た。
ミュージカル舞台作品の2度目の映画化。スピルバーグ初のミュージカル作品。
前のウエスト・サイド物語(1961年版)は10代の頃に観た記憶が微かにあるけど、ディテールは全然、覚えていなかった。なので設定が加えられている部分や違う部分があると思う(街が再開発にあっていて、ストリート・ギャングの抗争にかかわらずどちらも出て行かなければいけない、という設定は1961年版にはなかったのでは)けど、確信を持っては言えない。つまり前作との比較は出来ない。バーンスタインの音楽は好きなので前の映画のサントラを持っているが、映像のDVDとかは持ってないし。つまりは主に「Maria」とか「Tonight」とか「One Hand, One Heart」「Somewhere」の歌を聴いていただけだった。
で、予習はほとんどしないまま観たんだけど、ホント、「圧倒された」。
モノスゴイモノを観せてもらった感じ。
全く救いのない物語を、作られてから60年後に聴いてもそこそこ突き抜けているバーンスタインの音楽と、さすがスピルバーグ、という映像美で見せつけてくれる。出てくるニンゲンで思慮深かったり、賢かったりするのは皆無。底辺から抜け出せない若者たちが刹那的?に、破滅に向かってイガミ合い、争う。
下敷きにしているシェークスピアの「ロミオとジュリエット」なんてしょせん「すれ違い」の悲劇で、展開に必然性がないんだけど(神父がシッカリしてればああいう結末にはならなかっただろう・・・)、この物語は「悲惨な状況に置かれている人たちが、世界や運命にあらがい、あがいても結局そこから抜け出せない」悲劇。希望に満ちあふれた美しい歌を何度歌おうとも、悲惨な結末はニンゲンごときでは避けられない、と言いたげな、まさにギリシャ悲劇のような物語が描かれていた。1961年版より、そこは強調されていると思う。
なのに。
そんな救いのない話なのに、観終わった後の後味はなぜか良い。繰り返しになるけど圧倒的にモノスゴイモノを観せてもらった爽快感みたいなものがある。なぜか全く救いのない結末なのに希望が感じられる。その理由のひとつは明らかに音楽のチカラだと思う。音楽は直接感情に訴えてくるから、物語内容に関わらず、すばらしい歌が救いを感じさせてくれる。
もちろん叙事物語の悲劇的結末によるカタルシスもある。
などと分析などするけど。
ともかく凄かった。心激しく揺さぶられた。映画を観て、久々に深く感動した。
救いのない話で、なおかつ大雑把に話は知っているので(ロミオとジュリエットが下敷きになっているという段階でそもそもハナからネタバレしている)、家で配信やパッケージメディアとかで観たら歌以外の部分を早送りとかしてしまいそうで、そうするとクライマックスの感動が薄れてしまうだろう。加えて現在のシネコンの音響の良さがあるので、これは絶対に映画館に足を運んで観るべき映画である。2千円しないでこれだけのものが観られるなんて安いモノである。
ついでに。登場人物で言えば男主人公の盟友?リフの描き方ならびに俳優の演技やビジュアルが凄かった。もう未来に絶望していて、自暴自棄になって、男主人公のトニー(堅気になりそうになっていて、そして呑気に恋とかしている)を巻き込んだ拡大自殺をしかけるかのような人物像。非常に今日的でセツない。それと女主人公の兄の恋人アニータの圧倒的な存在感。良くも悪くも女主人公のマリアは18の浮かれた小娘としてちょっと軽薄なニンゲンとしてちゃんと描かれているんだけど、それとの対比がエグかった。それにアニータの俳優はダンスシーンも凄かった。
結果として男女の主人公に(ほとんど)感情移入できない話でもあるのに、観終わるとちゃんと感動してるっていうのもすごい。
ともかく。後世に残ってほしい一本だと思う。